東京高等裁判所 昭和52年(ネ)2359号 判決 1978年12月22日
控訴人(被告) Y1
控訴人(被告) Y2
右両名訴訟代理人弁護士 渡辺昭
被控訴人(原告) 静岡県職員組合
右代表者執行委員長 A
右訴訟代理人弁護士 西山正雄
主文
原判決中控訴人Y2に関する部分を取り消す。
被控訴人の控訴人Y2に対する請求を棄却する。
控訴人Y1の控訴を棄却する。
訴訟費用中控訴人Y2と被控訴人との間に生じたものは、第一、二審とも被控訴人の負担とし、控訴人Y1と被控訴人との間に生じた控訴費用は同控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の各請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、証拠関係は、次に付加するほかは、原判決の事実欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
控訴代理人は、控訴人Y1が郵便切手購入代金の領収書等を偽造したのは、上司であるBの職務上の指示に基づくのであり、正規の購入代金との差額はBに渡してあり、同控訴人が差額を横領し、損害を被控訴人に与えたことはない、と主張した。
証拠<省略>
理由
一、当裁判所は、被控訴人の控訴人Y1に対する請求を理由があり、控訴人Y2に対する請求を理由がないと判断するが、その理由の詳細は、次のとおりである。
二、当判決の引用する原判決の事実欄記載請求原因1項の事実、及び昭和五〇年六月一一日に控訴人Y1が被控訴人に対し金三、六二六、〇〇〇円を同年八月三一日限り支払う旨約したことは、いずれも当事者間に争いがない。
三、控訴人Y2が被控訴人主張のとおり控訴人Y1の債務につき連帯保証したかについて判断する。
この点についての事実認定は、左記のとおり付加するほかは、原判決の七枚目表本文の六行目の「成立に争いのない」から一〇枚目裏六行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。但し、同七枚目表七行目の「同B」の次に「(第一、二審)」、同八行目の「被告本人Y1」の次に「(第一、二審)」、同一〇行目の「被告両名の各本人尋問の結果」の次に「(被告Y1については第二審とも)」を各加える。
以上の事実を認めることができる。右認定事実によれば、控訴人Y2は控訴人Y1の債務につき保証ないし連帯保証したのではないかとも考えられなくないが、控訴人Y1の債務の存否及びその支払方法・時期につき関係当事者が最終的に確認した趣旨を記載した書面である前記甲第一号証(確認書)において、本件三、六二六、〇〇〇円の債務については昭和五〇年八月三一日までに控訴人Y1が弁済するものとすると明確に規定し、控訴人Y2が右債務について保証ないし連帯保証する旨の規定は全く存しないことに徴すれば、控訴人Y2が「できる限りの責任をとらしてもらう」とか「被控訴人がそのように主張するのならば、自分が何が何でも努力して八月三一日までに支払う」と発言しても、それは、控訴人Y2において、夫としての立場から、妻である控訴人Y1の弁済資金を昭和五〇年八月三一日までに用意する旨を表明したにすぎず、控訴人Y1の債務の保証ないし連帯保証を約したものであるとまではいえないものと判断するを相当とする。
四、控訴人Y1の弁済の意思表示が強迫によってなされたものであるとの主張及び右が民法九三条但書により無効であるとの主張についての判断は、次のとおり付加するほかは、原判決一一枚目表九行目から一二枚目裏三行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。但し、一一枚目裏九行目の「証人Cの証言」の次に「第二審の控訴人Y1本人尋問の結果」、同一二枚目表一一行目の「Aの尋問の結果」の次に「第一、二審の証人Bの各証言」を各加える。
五、次に控訴代理人の当審における主張について判断する。
控訴人Y1が郵便切手購入代金の領収書を偽造したのは、上司であるBの職務上の指示に基づくものであり、正規の購入代金との差額はBに渡してあり、同控訴人が差額を横領したことはないと主張し、第一、二審の控訴人Y1、第一審の控訴人Y2各本人尋問の結果、第一審の証人Cの証言の一部にはこれにそうものがあるが、これらは第一審の証人D、E、Fの各証言、被控訴組合代表者A本人尋問の結果、第一、二審の証人Bの証言、Bが被控訴組合中遠支部の書記長であったのは昭和三六年夏までであること(第二審の証人Bの証言により明らかである。第一審の同証人の証言中右書記長の在職が昭和三五年七月までであるとの部分は第二審の同証人の証言に徴して誤りと認める。)、右横領に係る差額が前記認定(当判決の引用する原判決に記載のとおり)のように昭和三七年以降の分であること、昭和三六年夏以降被控訴組合の本部副委員長であるBが中遠支部の書記である控訴人Y1に対し会計上の指示を与える権限のないこと(このことは第一審の証人Eの証言により認められる。)等に照らして措信できず、その他には右主張事実を認めるに足りる証拠はない。従って、控訴代理人の右主張は採用できない。
そうすれば、被控訴人が控訴人Y1に対し、前記約定に基づき金三、六二六、〇〇〇円及びこれに対する訴状が同控訴人に送達された日の翌日であることが記録上明らかな昭和五〇年一一月九日以降支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本位的請求は正当であって、これを認容した原判決は相当で、同控訴人の控訴は理由がないからこれを棄却すべく、被控訴人の控訴人Y2に対する請求は、これを棄却すべく、これを認容した原判決は不当で、同控訴人の控訴は理由があるから、原判決を取り消すこととする。そこで、訴訟費用の負担につき、民訴法九五条、九六条、八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鈴木重信 裁判官 糟谷忠男 浅生重機)